おたふくかぜ
〜正しい知識と対策について〜

普段の診療の場で、おたふくかぜに関連したご質問を受けることがしばしばあります。
できるだけ的確にお答えしているつもりですが、なかなか短い時間で意図することを伝えきれないことがあります。
それを補足する意味で要点だけ並べてみました。
京都府の流行状況は、京都府感染症情報センターのHPをご参照ください。
これらの項目についてご質問などあればお尋ねください。
知っておくべきポイント
おたふくかぜは、
流行性耳下腺炎あるいはムンプスと呼ばれるウイルス感染症です。
主な症状は発熱、耳下腺の腫脹ですが、症状の程度は個人差があり、なかにははっきりとした症状が出ないまま(不顕性感染)推移することがあります。
感染力は耳下腺が腫れだす1~2日前から腫れが消失するまでつづきます。
下記に示すように診断そのものが難しい(紛らわしい)ことが多く、現状では流行を阻止することが困難な状況です。
- 流行性耳下腺炎、あるいはムンプスとも呼ばれる
- 唾液を介したウイルスの飛沫感染で、潜伏期間は2~3週間
- 発症者の約60%が3~6歳。
- 主な症状は発熱や耳下腺の腫脹。
- 発症前1~2日から腫れがひくまでは感染力を有する。
- 症状の程度は様々で、不顕性感染が約30%。
→ 診断が難しいことが多い - 種々の合併症こそが重要な問題となる。
- 予防可能な(=予防すべき)疾患である。
ワクチンで予防可能な疾患であり、重大な合併症も有するので、積極的に予防すべき疾患といえます。
ムンプスの診断における問題点
両側の耳下腺腫脹が明らかで、流行中であれば診断は容易
そうでない場合・・・
- 耳下線が腫脹する疾患はムンプスだけではない。
- 感染しても症状が出ない場合が20~40%ある。
- 腫脹が軽い場合、他の唾液腺腫脹の場合、紛らわしい。
- 発症2~3日前から感染力があるので気づいてからでは選い。
- 特異的かつ迅速な検査手法がなく、治療法もない。
一人でも発症すると
流行を阻止できないのが現状
典型的な場合、診断は容易ですが、ムンプス以外の病気であるにもかかわらずムンプスとして思い込んでしまうことがあること、逆にはっきりした症状がみられない場合はムンプスであるにもかかわらず、他の人への感染源となりうることがあります。特異的かつ迅速な検査法がないため紛らわしいまま放置されていることもあります。
また、一旦感染してしまってからは緊急予防接種は有効ではなく、治療法もないことから一人でも発症すると流行を阻止できないのが現状です。
ムンプスの合併症
髄膜炎は、耳下腺腫脹後3~5日後に多い。
- 髄膜炎
-
耳下腺腫脹後3~5日後に多い。
約10%と高率にみられる。実際はもっと多い。
髄液採取、入院安静加療で軽快する。 - 睾丸炎、卵巣炎
-
まれではあるが、不妊の原因になりうる。
思春期以降の感染で約20~30%(睾丸炎)、5%(卵巣炎)。 - 難聴
-
高度の難治性難聴。
2万人に一人程度といわれていたが、最近の調査では3500人に一人あるいはそれ以上ともいわれている。 - 膵炎
- 軽症のものを含めると数%に合併する。
- その他
髄膜炎の頻度が最も高く、軽症例まで含めると10人に一人にみられます。そのうち、頭痛や吐き気の症状が強い場合には、入院して髄液検査などを要する場合もあります。
また、ある程度年長になって罹患すると不妊の原因となる睾丸炎、卵巣炎にいたる場合もあるので注意が必要です。
また、従来あまり重要視されていませんでしたが、高度の難聴をきたす率がこれまで知られている以上に高いことがわかってきています。
一旦難聴となった場合、治癒する可能性は極めて低いとされています。
ムンプスを軽視せずに、積極的に予防接種を受けることをおすすめします。
予防対策
流行阻止には、85~90%の集団免疫率が必要
ワクチン接種が唯一の方法
集団生活を行なっているこどもたちの世代において、流行を阻止するためには、その集団に属する人の90%程度が抗体を保有している必要があります。
これを達成するためには、ワクチン接種が唯一の方法であり、世界中の多くの国々でムンプスワクチンが定期接種に組み込まれています。また、それらの国々では定期接種を導入後にムンプスの発症者数は激減していることがわかっています。
先進国の中で定期接種が行なわれていないのはわが国のみといっても過言ではありません。
ムンプスワクチンが定期接種に含まれている国 WHO 1998
| 定期接種/対象国 | ||
| 開発国 | 22 / 25 | 92% |
| 過渡期の国 | 19 / 22 | 86% |
| 開発途上国 | 40 / 168 | 24% |
ムンプス発症者数は1回接種の52カ国では約12%、2回接種の30カ国では1%未満に渡少した。
ワクチンの有効性と副反応
有効性
抗体獲得率は、90〜95%
有効率は、78~90%とされている。
副反応
- 発熱や軽度の耳下腺腫脹
- 14~19日後に1~2%にみられる。
- 髄膜炎
-
接種後18~30日後に1000~2000人に一人の割合で嘔吐、頭痛などで発症する。
(自然感染の発症の100分の1以下)
その他の特異的な副反応はほとんど心配ないと考えられる。
両側の耳下腺腫脹が明らかで、流行中であれば診断は容易
ワクチン接種により、ムンプスウイルスに対する抗体は90%以上の率で獲得されます。
しかし、実際の有効率はこれより若干低めの値をとることが知られています。
つまり、ワクチン接種者のうち、10人に1人か2人はかかることがありうる、と考えてください。
副反応としては、潜伏期間に一致して軽度の耳下腺腫脹や、ごくまれに髄膜炎症状がみられるとされています。
生ワクチン(≒生きたウイルスを弱毒化して接種するタイプのワクチン)であるため、そのウイルス特有の副反応は、全くゼロというわけにはいきませんが、自然にかかるリスクを考えた場合圧倒的にメリットは大きいものと考えられます。
